すぅ、すぅ、規則正しい寝息が聞こえる。

　きっと眠ってしまったのだろう、桃色の髪に指を通して撫でてみても、起きる気配はない。

　――それにしても、今日のリリ先輩はいつにも増して無防備だった。

　偶然通りかかった公園でよく知る桃色の髪が見えて話しかけに行こうと近付いてみたら、彼女は見たことがないほど酷く青い顔をしていた。

　やまが感じた異変はそれだけではなくて。心配して背中をさすったときに、感じたのだ。信じられないくらい強いアルファのフェロモンを。

　リリ先輩はまだ16歳、アルファとして覚醒してからまだ大した時間は経っていないはずなのに。アルファのフェロモンにあまり反応を示さないはずのやまのオメガが、このアルファが欲しいと、このアルファに染め上げられたいと、そう叫んでいた。疑似ヒートを誘発されなかったのが不思議なくらいだ。

　リリ先輩自身は恐らく自分がフェロモンを出していることに全く気付いていないみたいだったけれど、それなら尚更危ない。知り合いですらないオメガの疑似ヒートを誘発して、望まない形で番の契りを交わしてほしくはない。

　なんて、彼女のことを思っているように見えても。本当は彼女が誰かのアルファになってほしくないだけだ。

　付き合いたいとか、それこそ番になりたいとか、そんなわがままは言わない。今こうやって彼女の寝顔を見ていられるのが奇跡なんじゃないかと思っているくらいで。

　だから、せめて今くらいは。醜い独占欲をほんの少しだけ、彼女に纏わせることを赦してほしい。

「そうやって素性もわからないような後輩に簡単に気を許して家にあげると、やまみたいな悪いオメガに襲われちゃいますよ」

　彼女にぎゅっと抱きついて、ほんの少しだけ、やまの匂いでマーキングする。やまは出来損ないのオメガだから、どんなにマーキングしたってフェロモンを纏わせたひとどころか誰にも気付かれない。

　誰も感じ取れないから、なんの意味もないと分かっていても。オメガの本能なのか、目の前のアルファを誘おうとしてしまう。

　彼女に振り向いてほしいなんて、やま自身は思っていないはずなのに。

　心の底から、第二の性が憎い。彼女のことが好きというこの気持ちが憧れからなのか、恋だからなのかもまだやま自身分かっていないのに、本能はそれを全部無視して彼女を――いや、彼女でも誰でも。とにかくアルファという存在を求めてしまうから。

　オメガはどこまでも、卑しい存在でしかない。大好きなひとのそばにいて、すごく幸せなはずなのに。どんどん惨めな気持ちになっていく。

「すき、なんですよ。リリ先輩」

　この気持ちに嘘偽りなどない。本気で彼女のことが大好きなのは事実だ。ただ、その形がまだ曖昧だというだけで。

　だから、彼女の前ではオメガでいたくない。アルファとの子を成したいなどという欲に塗れた本能を、彼女にだけは見せたくない。

　浮かんできたネガティブな考えを振り払うようにやまも寝てしまおうとぎゅっと目を瞑る。起きたら彼女の体調が良くなっていますようにと願って、ゆっくりと襲ってくる眠気に身を任せた。

能翻译吗

すぅ、すぅ、規則正しい寝息が聞こえる。

　きっと眠ってしまったのだろう、桃色の髪に指を通して撫でてみても、起きる気配はない。

　――それにしても、今日のリリ先輩はいつにも増して無防備だった。

　偶然通りかかった公園でよく知る桃色の髪が見えて話しかけに行こうと近付いてみたら、彼女は見たことがないほど酷く青い顔をしていた。

　やまが感じた異変はそれだけではなくて。心配して背中をさすったときに、感じたのだ。信じられないくらい強いアルファのフェロモンを。

　リリ先輩はまだ16歳、アルファとして覚醒してからまだ大した時間は経っていないはずなのに。アルファのフェロモンにあまり反応を示さないはずのやまのオメガが、このアルファが欲しいと、このアルファに染め上げられたいと、そう叫んでいた。疑似ヒートを誘発されなかったのが不思議なくらいだ。

　リリ先輩自身は恐らく自分がフェロモンを出していることに全く気付いていないみたいだったけれど、それなら尚更危ない。知り合いですらないオメガの疑似ヒートを誘発して、望まない形で番の契りを交わしてほしくはない。

　なんて、彼女のことを思っているように見えても。本当は彼女が誰かのアルファになってほしくないだけだ。

　付き合いたいとか、それこそ番になりたいとか、そんなわがままは言わない。今こうやって彼女の寝顔を見ていられるのが奇跡なんじゃないかと思っているくらいで。

　だから、せめて今くらいは。醜い独占欲をほんの少しだけ、彼女に纏わせることを赦してほしい。

「そうやって素性もわからないような後輩に簡単に気を許して家にあげると、やまみたいな悪いオメガに襲われちゃいますよ」

　彼女にぎゅっと抱きついて、ほんの少しだけ、やまの匂いでマーキングする。やまは出来損ないのオメガだから、どんなにマーキングしたってフェロモンを纏わせたひとどころか誰にも気付かれない。

　誰も感じ取れないから、なんの意味もないと分かっていても。オメガの本能なのか、目の前のアルファを誘おうとしてしまう。

　彼女に振り向いてほしいなんて、やま自身は思っていないはずなのに。

　心の底から、第二の性が憎い。彼女のことが好きというこの気持ちが憧れからなのか、恋だからなのかもまだやま自身分かっていないのに、本能はそれを全部無視して彼女を――いや、彼女でも誰でも。とにかくアルファという存在を求めてしまうから。

　オメガはどこまでも、卑しい存在でしかない。大好きなひとのそばにいて、すごく幸せなはずなのに。どんどん惨めな気持ちになっていく。

「すき、なんですよ。リリ先輩」

　この気持ちに嘘偽りなどない。本気で彼女のことが大好きなのは事実だ。ただ、その形がまだ曖昧だというだけで。

　だから、彼女の前ではオメガでいたくない。アルファとの子を成したいなどという欲に塗れた本能を、彼女にだけは見せたくない。

　浮かんできたネガティブな考えを振り払うようにやまも寝てしまおうとぎゅっと目を瞑る。起きたら彼女の体調が良くなっていますようにと願って、ゆっくりと襲ってくる眠気に身を任せた。

介绍一下你自己

すぅ、すぅ、規則正しい寝息が聞こえる。

　きっと眠ってしまったのだろう、桃色の髪に指を通して撫でてみても、起きる気配はない。

　――それにしても、今日のリリ先輩はいつにも増して無防備だった。

　偶然通りかかった公園でよく知る桃色の髪が見えて話しかけに行こうと近付いてみたら、彼女は見たことがないほど酷く青い顔をしていた。

　やまが感じた異変はそれだけではなくて。心配して背中をさすったときに、感じたのだ。信じられないくらい強いアルファのフェロモンを。

　リリ先輩はまだ16歳、アルファとして覚醒してからまだ大した時間は経っていないはずなのに。アルファのフェロモンにあまり反応を示さないはずのやまのオメガが、このアルファが欲しいと、このアルファに染め上げられたいと、そう叫んでいた。疑似ヒートを誘発されなかったのが不思議なくらいだ。

　リリ先輩自身は恐らく自分がフェロモンを出していることに全く気付いていないみたいだったけれど、それなら尚更危ない。知り合いですらないオメガの疑似ヒートを誘発して、望まない形で番の契りを交わしてほしくはない。

　なんて、彼女のことを思っているように見えても。本当は彼女が誰かのアルファになってほしくないだけだ。

　付き合いたいとか、それこそ番になりたいとか、そんなわがままは言わない。今こうやって彼女の寝顔を見ていられるのが奇跡なんじゃないかと思っているくらいで。

　だから、せめて今くらいは。醜い独占欲をほんの少しだけ、彼女に纏わせることを赦してほしい。

「そうやって素性もわからないような後輩に簡単に気を許して家にあげると、やまみたいな悪いオメガに襲われちゃいますよ」

　彼女にぎゅっと抱きついて、ほんの少しだけ、やまの匂いでマーキングする。やまは出来損ないのオメガだから、どんなにマーキングしたってフェロモンを纏わせたひとどころか誰にも気付かれない。

　誰も感じ取れないから、なんの意味もないと分かっていても。オメガの本能なのか、目の前のアルファを誘おうとしてしまう。

　彼女に振り向いてほしいなんて、やま自身は思っていないはずなのに。

　心の底から、第二の性が憎い。彼女のことが好きというこの気持ちが憧れからなのか、恋だからなのかもまだやま自身分かっていないのに、本能はそれを全部無視して彼女を――いや、彼女でも誰でも。とにかくアルファという存在を求めてしまうから。

　オメガはどこまでも、卑しい存在でしかない。大好きなひとのそばにいて、すごく幸せなはずなのに。どんどん惨めな気持ちになっていく。

「すき、なんですよ。リリ先輩」

　この気持ちに嘘偽りなどない。本気で彼女のことが大好きなのは事実だ。ただ、その形がまだ曖昧だというだけで。

　だから、彼女の前ではオメガでいたくない。アルファとの子を成したいなどという欲に塗れた本能を、彼女にだけは見せたくない。

　浮かんできたネガティブな考えを振り払うようにやまも寝てしまおうとぎゅっと目を瞑る。起きたら彼女の体調が良くなっていますようにと願って、ゆっくりと襲ってくる眠気に身を任せた。

翻译上面的内容